選択 · 幹細胞と長寿

長寿のための​幹細胞:​本物の⁠可能性と、​正しい問い

夕暮れのソルトレイクシティを見下ろす丘の上で、ジャンプして手を振るAmy Killenと家族、Marek、Alek。
ユタ州ソルトレイクシティを見下ろす丘でのAmy Killenと家族、Marek Piotrowski、Alek Piotrowski、2024年5月。幹細胞についてのLive Beyondインタビューの夜。

旅のなかで、息子のAlekと私は39の国と州で100人を超える長寿の専門家に会いました。幹細胞の話は何度も何度も出てきました。魔法の細胞と呼ぶ人もいます。すべて誇大宣伝だと言う人もいます。私は本当のことが知りたくて、患者に幹細胞を使っている医師、人生の大半をかけて幹細胞を研究してきた科学者、そして私たちがすでに持っている幹細胞を目覚めさせる研究をしている医師にたずねました。このページでは、幹細胞とは何か、なぜ年齢とともに衰えるのか、「幹細胞治療」として何が売られているのか、何が証明されていて何がまだなのか、そして誰かがあなたの体に何かを入れる前に聞いておきたいことを説明します。正直に話してくれた一人ひとりに、心から感謝しています。

著者: Marek Piotrowski · 更新 2026-10-30

要点

本物の可能性があり、最初の証拠はもう出ています。幹細胞はあなた自身の体の修理チームで、それを助けることで、いつか力強く、痛みがなく、健康で、見た目も若々しい年月が増えるかもしれません。

血液の幹細胞移植は何十年も命を救ってきましたし、特定の病気に対しては新しい幹細胞医薬品も承認されています。科学者たちはまた、これらの細胞がおもにメッセージを送り、あなた自身の修復のスイッチを入れることで働いていることを発見しました。それが、よりやさしく、より賢い治療への扉を開いています。

老化そのものについては大規模な試験はまだこれからです。だからいちばん大切な問いはこうです。どの細胞を、どこから、何のために、どの試験で? [1][2]

これは医療上の助言ではありません。

このページは、私たちの旅での経験と、科学者たちが私たちに語ってくれたことをお伝えするものです。どの薬・ペプチド・サプリメント・治療もおすすめするものではなく、あなたのことを何も知りません。

ご自身の主治医に相談せずに、薬・ペプチド・サプリメント・治療を始めたり、やめたり、変えたりしないでください。主治医はあなたの健康状態を知っていて、血液検査の結果を確認できます。妊娠中や妊娠を考えている方、持病のある方、ほかの薬を飲んでいる方は、なおさらです。

私たちの考える長寿:健康で喜びに満ちた年月を、もっと長く。 私たちの定義 →

150万件1957年の最初の移植以来、世界で行われた血液の幹細胞移植の数(2019年までの推計)。命を救う、証明された幹細胞の使い方です。[1]
2024FDAが初めて間葉系幹細胞の医薬品を承認した年。骨髄移植後に重い合併症を起こした子どもたちのためのものです。[2]
2,7542021年に、FDAが承認していない幹細胞治療を販売していたアメリカのクリニックの数。2016年には570でした。[3]

幹細胞とは

自宅で、赤いTシャツを着てほほえむAmy Killen。
ユタ州ソルトレイクシティでのAmy Killen、2024年5月。幹細胞にできること、できないことについてのMarek PiotrowskiによるLive Beyondインタビュー。

体のほとんどの細胞には、ひとつの仕事しかありません。皮膚の細胞はずっと皮膚の細胞です。幹細胞は違います。自分のコピーをつくることができ、体が修復を必要とするときには、ほかの種類の細胞に変わることができます。骨髄、脂肪、皮膚、腸、そのほかたくさんの場所で待機している、体の修理チームだと考えてください。

ソルトレイクシティの谷を見下ろす彼女の家で、サイクリングと家族そろっての夕食の前に、何年も患者に幹細胞を使ってきた医師のAmy Killenに、幹細胞についての彼女の本当のところを聞きました。その答えは、私が聞いたなかでいちばんの短いまとめです。

「幹細胞はすばらしいと思います。なんでもできるわけではありません。万能薬ではありません。あらゆる問題を解決するわけではありません。でも、ある状況では間違いなく役に立ちます。」
Amy Killen · 再生医療と長寿医療の医師 · ソルトレイクシティ、2024年5月 · 翻訳

かんたんに言うと: 幹細胞は、ある状況では本当に役に立ちます。でも、なんでも治す薬ではありません。

幹細胞はすべて同じではありません。まずそこを理解することが大切です。トロントで、友人を通じて、キャリアの大半をひとつの種類の幹細胞にささげてきた科学者、John Daviesに会いました。彼は幹細胞の家系図を説明してくれました。

「多能性幹細胞は、胚のなかにある幹細胞です。[…]ですから、もう少し限られたほかの種類の幹細胞もあって、それはすべてをつくるわけではありません。私がもう何年も関心を持っている幹細胞は間葉系幹細胞と呼ばれていて、略してMSCと呼んでいます。MSCは、体の結合組織と呼ばれるものだけをつくる細胞です。骨、軟骨、線維組織、靱帯、腱、そういったものです。脂肪も結合組織のひとつです。」
John Davies · 幹細胞とエクソソームの科学者 · トロント、2024年7月 · 翻訳

かんたんに言うと: 胚の幹細胞は、何にでもなれます。多くのクリニックが話しているのはMSCです。骨、軟骨、腱、脂肪をつくる、もっと限られた種類の幹細胞で、このあと見ていくように、つくる以外にもずっと多くのことをしています。

よく耳にする3つの種類

造血幹細胞は骨髄にいて、私たちの血液と免疫の細胞をすべてつくります。骨髄移植に使われるのはこの細胞です。間葉系幹細胞(MSC)は骨髄、脂肪、さい帯、胎盤から採られ、多くのクリニックが「幹細胞」と言うときはこれを指しています。多能性幹細胞は体のどんな細胞にもなれます。胚から採られるか、大人の細胞から研究室でつくられ、まだほとんどが研究段階です。

根拠: 細胞の違い [4][5]

幹細胞が年齢とともに衰える理由

緑の森に座り、小さな白い模型を手にほほえむJohn Davies。
トロントでのJohn Davies、2024年7月。幹細胞が年齢とともに衰える理由についてのMarek PiotrowskiによるLive Beyondインタビュー。

幹細胞の枯渇、老化の特徴のひとつ

2013年と、さらに2023年に、第一線の科学者たちが、老化を進める主なプロセスをまとめました。12の老化の特徴(Hallmarks of Aging)のひとつが幹細胞の枯渇です。年を重ねるにつれて幹細胞は数が減り、疲れていくので、体の修復が遅くなります。著者のひとりであるGuido Kroemerが、2024年2月にシンガポールで、この老化の特徴を説明してくれました。

根拠: 老化の生物学のレビュー [6]

John Daviesは、それがどれほど早く始まるのかを話してくれました。少なくともMSCについては。

「MSCについてもうひとつお話しできるのは、骨髄のなかのMSCの数が[…]10代の後半に急激に減ることがよく知られている、ということです。[…]ですから、18歳くらいになるころには、[…]骨髄のなかのMSCは生まれたときよりずっと少なくなっています。そして年をとりつづけるにつれ、その数は減りつづけます。」
John Davies · 幹細胞とエクソソームの科学者 · トロント、2024年7月 · 翻訳

かんたんに言うと: 私たちはこの修理役の細胞をたくさん持って生まれ、まだ若いうちにその多くを失います。修理役の細胞が減れば、修復は遅くなります。

そしてJohnは、このことについての私の考え方を変える話をしてくれました。この細胞は、つくるだけではないのです。

「でも、何年も前にわかったことですが、MSCにはほかにもとても大切な性質があります。そのひとつが、MSCには炎症をおさえる働きがあるということです。[…]考えてみると、老化は実は炎症の病気なんです。[…]人が年をとるとき、体がどう老化するのか、なぜ老化するのかは、かなりの部分が炎症と関係しています。だから、その炎症を減らすのに使える生物学的なしくみがあれば、年をとっていく人たちの生活をよくすることができます。[…]細胞が人を長生きさせる、という話ではありません。年をとりながら、もっと楽に暮らせるようにする、という話なんです。」
John Davies · 幹細胞とエクソソームの科学者 · トロント、2024年7月 · 翻訳

かんたんに言うと: 炎症は、体の警報であり消防隊です。それが何年もつきっぱなしになると、体はすり減っていきます。MSCは炎症をしずめることができます。そこが、幹細胞と長寿が出会う場所です。永遠に生きることではなく、より健康な関節と、より穏やかな体で、もっと楽に年を重ねることです。

つくるよりも、メッセージを送っている

森のなかの小道を歩くJohn Davies、Marek、Cory Goldberg。
トロント近くの森を歩くJohn Davies、Marek Piotrowski、Cory Goldberg、2024年7月。幹細胞がどうシグナルを送るのかについてのLive Beyondの対話。

旅を始めたころ、私は多くの人と同じように信じていました。幹細胞を注射すると、それがひざまで移動して、新しいひざになるのだと。Amyはそれを正してくれました。

「ここ5年ほどでわかってきたことのひとつは、幹細胞は、たとえばほかの人の幹細胞をあなたに入れたり、あなたの脂肪や骨髄から幹細胞を採って、たとえばひざに入れたりしても、その新しい組織にはならないということです。軟骨の細胞や骨の細胞のようなものにはならないんです。以前は、そういうしくみだと思われていました。本当に新しい細胞に変わるのだと。いまわかっているのは、幹細胞はシグナル分子を送り出しているということです。その場所に、たんぱく質やサイトカイン、細胞外小胞を放出し、それがその場所にいるあなた自身の細胞を刺激して、もっとよく働くようにするんです。」
Amy Killen · 再生医療と長寿医療の医師 · ソルトレイクシティ、2024年5月 · 翻訳

かんたんに言うと: 幹細胞はおもにメッセンジャーのように働きます。自分が修理そのものになるのではなく、あなた自身の細胞に修理をするよう伝えるのです。

2か月後、トロントで、John Daviesはさらに一歩先まで話してくれました。

「生きた細胞を人に注射すると、たいていはこの腕のひじの内側の静脈からですが、細胞は肺に行って、とても、とても早く、数分のうちに肺にとらえられます。そして、そう、数日たつともう見つかりません。どこへ行ったのか? 肺でばらばらに分解されるんです。そして、これらの細胞が働くのは、細胞そのものが活発なシグナル細胞だからではなく、粒子に分解されるからだということがわかっています。その粒子を、マクロファージと呼ばれる、体のもうひとつの種類の細胞が食べるんです。[…]つまり、仕事をすべてしているのは体のほうです。私たちはただ、きっかけを与えているだけなんです。」
John Davies · 幹細胞とエクソソームの科学者 · トロント、2024年7月 · 翻訳

かんたんに言うと: 点滴で静脈に入れた細胞は肺にとどまり、数日のうちに消えてしまいます。体のお掃除役の細胞がそのかけらを食べ、そのお掃除役の細胞が、あとで体を落ち着かせるのです。注射はひと押しにすぎません。仕事をするのはあなたの体です。

研究室での研究が示すこと

マウスでは、点滴で静脈に入れたMSCは肺にとどまり、1日ほどで消えました。別の研究では、体のお掃除役の細胞が注入されたMSCを飲みこみ、そのあと炎症をしずめる、穏やかなモードに切り替わりました。だからこそ、MSCに名前をつけた科学者のArnold Caplanは、のちに、MSCをmedicinal signaling cells(薬のように働くシグナル細胞)と呼ぶことを提案したのです。

根拠: 研究室での研究 [7][8][5]

この発見が新しい扉を開きました。大切なのがメッセージなら、細胞なしでメッセージだけを送れるかもしれません。そのメッセージは、エクソソームと呼ばれる小さな泡に乗って運ばれます。Amyが説明してくれました。

「幹細胞がほかの細胞とやりとりする方法のひとつは、細胞外小胞、EVと呼ばれる、情報の入ったとても小さな泡を放出することです。エクソソームはEVの一種です。この小さなEVは、ただふわふわ浮かんでいる小さな泡で、なかにはメッセンジャーRNAやサイトカイン、成長因子が入っていて、これがシグナル分子です。そしてそれが浮かんでいて、あなたの体に入れると、あなたの細胞がそのEVを取りこみ、それによって細胞の働き方がプログラムしなおされます。つまり、細胞に新しい取扱説明書を渡すようなものなんです。」
Amy Killen · 再生医療と長寿医療の医師 · ソルトレイクシティ、2024年5月 · 翻訳

かんたんに言うと: エクソソームは、細胞どうしがやりとりする、指示の入った小さな小包です。いまでは細胞そのもののかわりにこれを使うクリニックもあり、皮膚や髪によく使われています。いろいろな目的で研究されていますが、アメリカではまだ承認されたエクソソーム製品はひとつもありません。 [9]

知っておきたい言葉

体の修理チームを知るための3つの言葉

用語集から。カードをタップするとめくれます。裏には科学と、それを教えてくれた人たちの言葉があります。

No. 32 / 66治療

幹細胞治療

若く活発な細胞を体に入れて、体が自分で修復するのを助けること。

No. 32 / 66治療

幹細胞治療

旅で驚いたのは、こういうことです。入れた細胞の多くは新しい組織にはならず、すでにそこにある細胞の修復作業を呼び覚ます信号を送っているのです。血液のがんに対する骨髄移植のように、昔から効果が証明されている使い方もありますが、臨床試験が示す以上のことを約束するクリニックも少なくありません。

「幹細胞はすごいと思います。何でもできるわけではありません。万能薬ではないんです。… それでも、状況によっては間違いなく役に立ちます。」

Amy Killen · ソルトレイクシティ、2024年5月
レベル 03 · ラディカルな寿命延長
No. 61 / 66体の中

幹細胞の枯渇

工房には、修理のための上質な白木の材木を置いておく棚があります。その棚の材木は毎年少しずつ減り、残ったものは扱いにくくなっていきます。

特徴 09幹細胞の枯渇
No. 61 / 66体の中

幹細胞の枯渇

何かを直す必要が出てくるまでは、何もおかしく見えません。

役立つこと

人で蓄えを確実に立て直せるものは、まだありません。幹細胞移植は一部の血液のがんでは標準的な治療ですが、老化を防ぐ治療ではありません — 老化のための点滴を売っているクリニックはエビデンスより先走って売っていて、売られているものの中には危険なものもあります。 続きを読む →

この話がいちばん多く出たのは、この人たちとの会話でした: Amy Killen, John Davies, Michael Lim

No. 65 / 66体の中

慢性炎症

完全には消えることのない火。毎日の暮らしの中では感じないからこそ、何十年もかけて大きなダメージを与えるのです。

特徴 11慢性炎症
No. 65 / 66体の中

慢性炎症

役立つこと

睡眠、体重、筋肉、口の健康、そしてわかりやすい原因に対処すること。オメガ3にはそれなりのエビデンスがあります。そしてこれは、簡単な血液検査 — 高感度CRP — が役に立つことを安く教えてくれる、数少ないプロセスのひとつでもあります。

この話がいちばん多く出たのは、この人たちとの会話でした: David Karow, David Furman, Alessandra Zonari

「幹細胞治療」として売られているもの

クリニックで、大きなスクリーンに図を描くMichael Lim。
クアラルンプールのクリニックで自分の方法を説明するMichael Lim、2023年10月。Live Beyond。

「幹細胞治療」は、ひとつのもののように聞こえます。でも、そうではありません。この言葉の裏に隠れているかもしれないものを、証明された医療から、まだ始まったばかりのアイデアまで紹介します。

血液の幹細胞移植ドナーまたは自分自身の造血幹細胞を、強い化学療法のあとに入れて、血液と免疫のしくみを立て直します。白血病、リンパ腫、そのほかの血液の病気に使われています。証明された医療 [1]
脂肪や骨髄から採った、自分の細胞おなかの脂肪や腰の骨から採り、ときには濃縮したり研究室で増やしたりしてから、関節、皮膚、静脈などに注射してもどします。自分の細胞なので拒絶反応はありません。ただ、年を重ねた体では幹細胞の数が少なく、細胞自体も年をとっています。老化に対しては実験段階 [4]
ドナーの細胞(さい帯、胎盤、骨髄から)ふつうは出産のあと捨てられてしまう組織や、ドナーから採った若いMSCです。数が多くて若く、たいていは数日のうちに体から取り除かれます。アメリカでは、ドナー由来のMSC医薬品がひとつ承認されています。子どもの、まれで重い移植の合併症のためのものです。ひとつの病気に、ひとつの承認 [2][7]
エクソソーム細胞はまったく入っていません。細胞が放出するメッセージの入った小さな泡を研究室で集め、皮膚にぬったり、注射したり、点滴で静脈に入れたりします。アメリカで承認された製品はなし [9]
多血小板血漿(PRP)自分の血液を遠心分離して血小板を濃縮し、注射するものです。幹細胞治療と呼ばれることもありますが、血小板は幹細胞ではありません。幹細胞ではない
自分の幹細胞を目覚めさせる新しい細胞は加えません。そのかわりに、あなたがすでに持っている幹細胞を目覚めさせ、増やすためのたんぱく質、シグナル、栄養を使います。このあと紹介するMichael Limの方法がその例です。同じことをする遺伝子治療や薬は研究段階です。初期段階、まだ試験中

では、どこから採った細胞がいちばんいいのでしょうか。専門家のあいだでも意見は分かれています。Amy Killenはこう話します。

「たぶん関係があると思いますし、病気の種類によっても、人によっても、違うのだと思います。年をとった人の幹細胞はもうそれほど若くないことがわかっているので、[…]そういう人たちには胎盤の細胞のほうがずっと理にかなっています。幹細胞が年をとっているからです。若くて健康で、20代や30代なら、自分の細胞を使うほうが理にかなっているかもしれません。あなたの細胞は、ほかのどんな細胞よりも、あなたの体とのやりとりのしかたを知っているからです。だから、これは間違いなく大きな議論です。」
Amy Killen · 再生医療と長寿医療の医師 · ソルトレイクシティ、2024年5月 · 翻訳

かんたんに言うと: いちばんいい採り方は、まだひとつに決まっていません。年を重ねた体には若い細胞が合うかもしれませんし、若い体には自分の細胞がいちばん合うかもしれません。まだ答えの出ていない、大きな問いです。

すでに持っている幹細胞を目覚めさせる

インタビュールームの小さなテーブルで話すMarekとMichael Lim。
Longevity Summit DublinでのMarek PiotrowskiとMichael Lim、2023年8月。自分の幹細胞を目覚めさせることについてのLive Beyondインタビュー。

旅のいちばん最初のカンファレンス、2023年8月のダブリンで、クアラルンプールの医師Michael Limに会いました。彼は幹細胞を注射しません。私たちがすでに持っている幹細胞を目覚めさせるためのたんぱく質を使います。2か月後、私たちはクアラルンプールの彼のクリニックを訪ねました。

Michaelは自分の方法を、Alekにこう説明してくれました。

「このたんぱく質には、実はあなたが赤ちゃんのころに一度ふれています。私たちはこれをさい帯から採っているんです。[…]そこから、あなたの体が以前に使ったことのあるそのたんぱく質を取り出して、あなたの体に加えるだけです。[…]つまり、私たちの技術はとてもシンプルです。たんぱく質を入れると、そのたんぱく質が細胞のなかに吸収されます。細胞の壁には、私たちがコミュニケーションの壁と呼んでいるものがあって、そこには私たち独自の方法があります。そうやってドアが開くようにして、それからお父さんの幹細胞がたんぱく質を受け取るんです。そのあとで、幹細胞が若返るようにスイッチを入れます。若返るだけでなく、自分で増える力も高めます。つまり、幹細胞が自分自身の幹細胞をつくれるようになるということです。基本的にはMSC、つまり間葉系幹細胞のことです。」
Michael Lim · 医師、幹細胞のクリニックの創業者 · クアラルンプール、2023年10月 · 翻訳

かんたんに言うと: 彼の言葉を借りれば、さい帯から採ったたんぱく質があなた自身の幹細胞に入りこみ、スイッチを入れなおすので、幹細胞が増えて働きはじめる、ということです。新しい細胞は加えません。

そして彼は、自分の研究がいまどの段階にあるのかを、正直に話してくれました。

「いまは動物での研究を進めていて、さまざまな病気を対象に、第1相、そして第2相、第3相の臨床試験へも進んでいるところです。[…]論文を発表するので、そうすれば私たちが何を達成しているのかを見てもらえます。[…]それでも、私たちが重視しているのは健康寿命(healthspan)です。だから、あなたをできるだけ健康に保ちたいのであって、できるだけ長く年をとらせたいわけではありません。それを評価するには時間がかかりますから。[…]いま長寿を実現できるとは言えません。それを示すだけのデータも証拠も、まだ十分にないからです。」
Michael Lim · 医師、幹細胞のクリニックの創業者 · クアラルンプール、2023年10月 · 翻訳

かんたんに言うと: 彼の方法はまだ初期段階です。どれくらい効くのか、誰に効くのかを示すのは、試験と発表される論文です。

旅の後半、トロントで、私はMichaelの方法をJohn Daviesに説明しました。彼はこう言いました。

「ええ、その研究の一部については聞いたことがあります。正直に言うと、あまり多くはありません。私の専門分野ではないので。でも、とても興味深い方法なのは確かです。私自身の分野、MSCの分野に話をもどすと、[…]体のなかにはこの細胞が何百万個もあります。けがをしたとき、必要なときにだけ動き出すんです。それ以外のときは眠っています。だから、なんらかの方法でこの細胞が増えるようにうながして、あなたのために働こうと待っている細胞の集団を大きくできれば、それは明らかに有利です。[…]科学界がそれを実際に実現したとは思いませんが、確かに心ひかれる見通しです。」
John Davies · 幹細胞とエクソソームの科学者 · トロント、2024年7月 · 翻訳

かんたんに言うと: もっと大きくて、しっかり目覚めた修理チームがいれば、それは本当に有利です。それを安全に実現できると示した人はまだいませんが、科学者たちはこのアイデアに強くひかれています。

幹細胞のすみかも大切

上海の病院で、がんと長寿医療にたずさわる医師Evelyne Bischofは、幹細胞がいる場所、つまりニッチは、細胞そのものと同じくらいの力を持っていると話してくれました。彼女はそれを、細胞にいつ働くかを伝える充電器にたとえました。長寿のための目標は、そのすみかをもう一度若くすることだと彼女は言います。

根拠: インタビュー、上海、2023年12月

証明されていること、まだ試験中のこと

山を背に、テラスの青いデッキチェアに座るAmy KillenとMarek。
ユタ州ソルトレイクシティの自宅でのAmy KillenとMarek Piotrowski、2024年5月。幹細胞について何が証明されているのかについてのLive Beyondインタビュー。

証明済み:血液の幹細胞移植

1957年の最初の移植以来、2019年までに世界で推計150万件の血液の幹細胞移植が行われました。白血病、リンパ腫、そのほかの血液と免疫の病気で、命を救っています。

根拠: 世界の移植データ [1]

承認済み:ほかにいくつか、それぞれひとつの病気に

ヨーロッパでは2014年に、やけどで目をいためた人のために、患者自身の目の幹細胞から育てた治療が承認を勧告されました。アメリカでは長いあいだ、承認された幹細胞製品は、血液の病気のための、さい帯血の造血細胞だけでした。2024年12月、FDAは初めてのMSC医薬品を承認しました。ドナーの骨髄からつくられ、骨髄移植後に重い合併症を起こした子どもたちのためのものです。

根拠: 規制当局の決定 [10][4][2]

まだ試験中:老化に対する幹細胞

老化を遅らせるため、あるいは健康な人をもっと健康にするために、FDAが承認した幹細胞治療やエクソソーム治療はありません。FDAによれば、承認されたエクソソーム製品はそもそもひとつもありません。関節、皮膚、髪、性の健康、全身の若返りのための治療がクリニックで提供されていますが、それがどれくらい効くのか、誰に、どれくらいの量で、どれくらいの頻度で効くのかを示す、大規模でていねいな試験はまだありません。

根拠: いまの科学の位置 [4][9]

ソルトレイクシティで、私はAmyに、これはまだ新しいものだと思うと話しました。

「まだ新しいものだと思うので、たぶん5年か10年後にはもっとずっと多くのことがわかって、もっとずっと効果的にできるかもしれません。」
Marek Piotrowski · ソルトレイクシティでAmy Killenと話して · 2024年5月 · 翻訳

彼女は私の考えを正してくれました。

「幹細胞の処置は、もう10年から15年、あるいはそれ以上行われています。[…]ですから、かならずしも新しいものではありませんが、研究が足りていないと思います。幹細胞の大規模な研究のための資金を集めるのは難しいんです。だって、あなたの体のなかのあなたの幹細胞を研究するのに、誰がお金を出すでしょう?[…]こうした細胞やEVをいちばんうまく使う方法について、私たちにはまだ学ぶことがたくさんあると思います。たとえば、濃度は? 適応は? 頻度は? そういったことが、まだ答えの出ていない問いなんです。」
Amy Killen · 再生医療と長寿医療の医師 · ソルトレイクシティ、2024年5月 · 翻訳

かんたんに言うと: クリニックは何年も前から幹細胞を使ってきましたが、大規模な研究にはとてもお金がかかり、しかもあなたの細胞を誰かが所有することはできません。だから、そうした研究にお金を出す企業はほとんどありません。そのため、基本的な問いの多くがまだ答えの出ないままなのです。

過剰な期待と、リスク

Buck Instituteの明るいアトリウムで、アームチェアに座って話すEric Verdin。
カリフォルニアのBuck InstituteでのEric Verdin、2024年5月。ドナーの幹細胞についてのMarek PiotrowskiによるLive Beyondインタビュー。

急成長する市場

2016年、研究者たちは、FDAが承認していない幹細胞治療を販売するアメリカのクリニックを570か所数えました。2021年には2,754か所になっていました。

根拠: アメリカの事業者の調査 [3]

私はJohn Daviesに、クリニックが「幹細胞をやっています」と言うとき、実際には何をしているのかをたずねました。彼の答えには驚かされました。

「実際に幹細胞を使っているところも、たぶんいくつかはあるでしょう。でも、幹細胞を注射していると大きく宣伝している医療者の大半は、実はまったく幹細胞を注射していないと思います。その例が、多血小板血漿と呼ばれるものです。[…]医療者はそれを幹細胞と呼ぶことがありますが、血小板は血液の細胞の一種で、幹細胞ではありません。そして血小板を濃縮しても、急に幹細胞になるわけではありません。ですから、とくに、もしかすると通常の法律の範囲の外で仕事をしているかもしれない医療者の広告で見かける主張の多くは、[…]幹細胞がまったく入っていないかもしれません。それは危険です。」
John Davies · 幹細胞とエクソソームの科学者 · トロント、2024年7月 · 翻訳

かんたんに言うと: 幹細胞治療と呼ばれるものすべてに、幹細胞が入っているわけではありません。そして注射器の中身がわからないなら、それが何を起こすのかは誰にもわかりません。

うまくいかなかったとき

医師たちは、何が起こりうるかを報告しています。フロリダでは3人の女性が、自分の脂肪から採った細胞を両目に注射されたあと、視力の大部分、あるいはすべてを失いました。海外で幹細胞注射を受けた男性の脊髄には、本人のものではない細胞でできたかたまりができました。世界中の報告をまとめたレビューでは、証明されていない幹細胞治療のあとに、感染症、腫瘍、さらには死亡まで見つかっています。また2019年には、FDAが、エクソソームとして売られている製品を投与された人に重い副作用が出ていると警告しました。

根拠: 発表された症例報告とレビュー [11][12][13][9]

Buck Institute for Research on Agingを率い、旅のなかで友人になったEric Verdinは、自分ならドナーの幹細胞は使わない理由を話してくれました。

「幹細胞が自分自身のものではなく、ほかの人から、胎盤やどこかほかの場所から来たものなら、可能性は2つあります。いちばんありそうなのは、体に入って5分以内に殺されてしまうことです。異物だと認識されるからで、私たちには異物をなんでも見分ける、すばらしい防御のしくみがあります。[…]そして、殺されるときに局所的な炎症が起きて、それが組織のつくりなおしにつながるのかもしれません。何かが役に立つとしたら、そういうしくみなのかもしれません。調子がよくなったと言う人もいます。もうひとつの、私がいちばん心配する可能性は、それがいくつかの免疫特権部位に残りつづけるかもしれない、ということです。体には、目や、男性の精巣など、抗原や異物が長くとどまれる場所があります。ほかの人の胎盤の幹細胞が自分の目に残りつづけて、腫瘍ができる可能性もあるといった考えは、好きになれないと思います。ですから、私がその賭けをするには、わからないことが多すぎると思うんです。」
Eric Verdin · Buck Institute for Research on Aging所長 · カリフォルニア、2024年5月 · 翻訳

かんたんに言うと: ドナーの細胞は、たいてい体に入ってすぐ免疫のしくみに壊されます。それ自体が、細胞が役に立つしくみの一部なのかもしれません。彼が心配しているのは、体のなかの守られた場所に隠れてしまうかもしれない、ごくまれな細胞です。わからないことがこれほど大きいとき、彼は待つことにしています。

喜びはどこに

緑の森に座って説明するJohn Davies。
トロントでのJohn Davies、2024年7月。私たちのなかにもういる修理チームについての、Marek PiotrowskiとのLive Beyondの対話。

私は幹細胞に強くひかれていて、そこに本物の可能性を感じています。同時に過剰な期待も見えていて、だからこそ下の問いがとても大切なのです。私自身がどうするかは、決まっています。迷わずAmy Killenのところへ行って、彼女の全身の幹細胞治療を受けますし、ひどい打ち身やけがをしたら、すぐに幹細胞を選びます。これは、旅のなかで聞いたすべてを踏まえた私自身の選択で、あなたへのアドバイスではありません。けがについては最初の結果は心強いものですが、大規模な試験はまだこれからです。

そして、私に喜びをくれるのはこのことです。いちばん力強い修理チームは、もう私たちのなかにいます。Johnが教えてくれたように、何かを注射したときでさえ、治しているのは私たち自身の体なのです。毎日体を動かすこと、よく眠ること、本物の食べ物、落ち着いた心、そして愛する人たちが、科学が追いつくまでのあいだ、体全体をよい状態に保ってくれます。私はトロントでJohnにこう言いました。

「自分たちでつくれるものを、なぜ外から取り入れるんでしょう? 私たちはすばらしい工場なんです。だから、この工場をもっとうまく動かしつづければいいだけだと思います。」
Marek Piotrowski · トロントでJohn Daviesと話して · 2024年7月 · 翻訳

科学は速く進んでいて、私たちは毎年少しずつ、細胞どうしがどうやって話しているのかを理解しています。この先に来るものを、健康で、好奇心をもって、喜びとともに見届けたいと思っています。

聞いておきたいこと:どの細胞を、どこから、何のために、どの試験で

幹細胞の科学者たちのアドバイス

幹細胞の科学者の主要な専門学会であるInternational Society for Stem Cell Researchは、患者と家族のための無料ガイドを出していて、幹細胞治療を受ける前に聞いておきたい質問がまとめられています。

根拠: 患者のためのガイド [14]

これが、専門家たちが教えてくれた質問です。聞いてみてください。そして、まず自分の主治医に相談してください。

医療上の助言ではありませんし、幹細胞、エクソソーム、そのほかの治療をすすめるものでも、反対するものでもありません。研究が示していることと、専門家たちが私たちに話してくれたことを紹介しています。

長寿マップのなかの幹細胞

これは医療上の助言ではありません。

このページは、私たちの旅での経験と、科学者たちが私たちに語ってくれたことをお伝えするものです。世界には、承認も十分な試験も受けていない幹細胞治療を販売するクリニックが数多くあります。体に注入する治療は、実際に害を及ぼすことがあります。体は一人ひとり違います。ある人に効いたことが、別の人にも同じように効くとは限りません。

ご自身の主治医に相談せずに、薬・ペプチド・サプリメント・治療を始めたり、やめたり、変えたりしないでください。主治医はあなたの健康状態を知っていて、血液検査の結果を確認できます。緊急の場合は、救急番号(日本では119)に電話してください。

出典

このページの数値はすべて、角かっこ内の番号の出典に基づきます。引用はLive Beyondが英語で収録したインタビューからのもので、ここでは日本語に訳し、言いよどみだけを整えています。 医療上の助言ではありません。何かを変える前に医師に相談してください。

  1. Niederwieser D, Baldomero H, Bazuaye N, et al. One and a half million hematopoietic stem cell transplants: continuous and differential improvement in worldwide access with the use of non-identical family donors. Haematologica. 2022;107(5):1045-1053. doi:10.3324/haematol.2021.279189
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